昔からあるものを、これからの文化へ。
カシジェーは、新しく生まれた食材ではありません。
泡盛とともに育まれ、沖縄の暮らしの中で食されてきたもの。
その背景をたどると、この土地で受け継がれてきた食の知恵と、人々の暮らしが見えてきます。

01|泡盛とともにあった、カシジェー
沖縄の伝統酒・泡盛には、約600年にわたり受け継がれてきた歴史があります。
その泡盛づくりから生まれるカシジェーもまた、かつて沖縄の暮らしの中で食されてきました。
琉球王朝時代の食医学書『御膳本草』には、泡盛づくりから生まれる粕についての記述が残されています。
カシジェーは、今になって見つかった新しい食材ではなく、
この土地の人々が、身近にあるものを活かしながら暮らしてきた知恵のひとつでした。


『御膳本草』(1832年)
琉球王朝時代の医師・渡嘉敷通寛が著し、1832年に首里王府へ上梓した食物本草書。
食材の性質や食べ合わせなどが記され、泡盛づくりから生まれる粕についての記述も残されています。
02|与那国島に残っていた、カシジェーのある暮らし

時代とともに、カシジェーを食べる文化は、沖縄の多くの地域で見られなくなっていきました。
けれど、日本最西端の与那国島には、今もカシジェーのある暮らしが残っています。
酒造所に瓶を預けておくと、蒸留の日にカシジェーを入れておいてくれる。
「カシジェーできたよ」
そんな連絡が来ると、島の人たちは受け取りに行きます。
取りに行けないお年寄りがいれば、誰かが代わりに届けることもある。
代表理事・田中えりが初めて与那国を訪れたとき、友人の與那覇有羽さんはこう話しました。
「昔から食べてるから、みんなカシジェーが大好きなんだよ。
楽しみにしてるわけさ。取りに行けないおばあには、僕が届けたりもするんだ」
つくられる人がいて、待っている人がいて、届ける人がいる。
カシジェーは、ただ昔から食べられてきたものではなく、
島の人と人の間をめぐる、暮らしの一部でもありました。
03|一滴も無駄にしない。島の食の知恵

豊年祭の準備で島中が慌ただしくしていた夏の日。
有羽さんが、
「せっかくだから、与那国らしいものを作るね」
と、自宅の台所で作ってくれたのが、「カシジェーの和え物」でした。
島で獲れた新鮮な魚をぶつ切りにする。
庭で摘んだサクナ、ピパーチ、ニガナなどの野草を刻む。
そこへ、一升瓶に入ったカシジェーを豪快に回しかける。
鮮やかな緑だった野草は、カシジェーと混ざり合い、みるみる灰褐色へと変わっていきます。
そして醤油をひと回し。
ざっざっと混ぜ合わせ、少し時間を置いて味をなじませる。
最後に、有羽さんは器を両手で持ち上げて言いました。
「最後、この汁を飲み干すのが一番うまいんだ」
残った汁まで、一滴も無駄にしない。
身近にある魚や野草、そして泡盛づくりから生まれるカシジェーを、余すところなくいただく。
そこには、この島で暮らしてきた人たちの知恵が、料理そのものとして残っていました。

与那国島で食されてきたカシジェー料理
04|「お荷物」と呼ばれていたもの

与那国島では、人々が楽しみに待っていたカシジェー。
ところが後に、本島の酒造所を訪れた田中は、まったく違う言葉を耳にします。
「酒造所にとって、カシジェーは “お荷物” 」
与那国では、できあがるのを楽しみに待つ人がいる。
一方で別の場所では、十分に活かすことができず、処理するために費用までかかっている。

同じカシジェーなのに、見る場所や見方が変わるだけで、その価値がまったく違って見える。
なぜ、これほど大切にされてきたものが、今は「お荷物」になっているのだろう。
そして、もう一度その価値を見つめ直したら、何が生まれるだろう。
この大きなギャップが、カシジェーをもう一度現代の食や暮らしへつなぎ直す、ひとつのきっかけになりました。
05|昔からあるものを、次の世代へ
与那国島でカシジェーと出会ってから、その可能性を確かめる試行錯誤が始まりました。
料理に加えてみる。組み合わせを変えてみる。食べ方を考える。
誰かに食べてもらい、また試してみる。
小さな実験を重ねるたびに、
カシジェーにはまだ知られていないおいしさや使い方があることが、少しずつ見えてきました。
そしてその輪には今、酒造所・企業・行政・研究者・地域の人たちなど、
さまざまな立場や経験を持つ人が加わっています。

それぞれの経験や得意なこと。
「こんな使い方もできるかもしれない」という好奇心。
誰かの手に渡るたびに、新しい知恵や発想が重なり、
カシジェーの可能性はさらに広がっていきます。
私たちが未来へつなぎたいのは、
単に「捨てられていたものを活用する」ことだけではありません。
泡盛とともに育まれてきた歴史と文化を知る。
先人たちの暮らしの知恵を受け取る。
そこに、今を生きる人たちの知恵や発想を重ねる。
そして、また次の世代へと手渡していく――。
カシジェーは、誰か一人が完成させるものではありません。
昔から受け継がれてきたものに、
今を生きる一人ひとりが、新しい知恵や発想を重ねていく。
そうしてカシジェーを、
みんなで育て、次の世代へつないでいきたいと考えています。
NEXT|カシジェーから、どんな未来をつくるのか。
食、地域、泡盛文化、人。
カシジェーから生まれる価値を、次の価値へ――。
